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祖母の夏の珠玉の思い出
センダンの木にたくさんの大きなクマゼミが我先にと大きな鳴き声を張りあげている姿は、今も昔もかわらない海辺の実家の風景です。 私の母方の祖母は、母が小さい頃に夫を亡くし、3人の娘を立派に嫁にやり、ずっとそこで材木屋で事務をしながら、ひとりで暮らしていた。初孫の私が、来るのをいつも祖母は楽しみにしてくれていて、冷蔵庫には、蟹やら蝦蛄やらのごちそうが食べきれないくらいたんまりだった。 今年で、祖母が亡くなって26年になる。亡くなった時も、夏休みで次の日からの来る孫達の為にいつものように冷蔵庫はお楽しみの食材でいっぱいだった。 そんな思い出の祖母の夏の思い出は、ワタリガニ。目の前に浅い湾が広がる海では、大きな蟹が底引き網でたくさん捕れた。環境が変わって、コンビナートや埋め立て、空港が出来るなどして、今となっては珠玉の夏の高級食材となってしまった。 祖母は、大きな鍋でどさっと蟹を茹でて、これも大きなざるで一気に冷まして身をしめて、扇風機の回る部屋の卓袱台の上にざるごとおき、好きなだけ食べさせてくれた。私たちは、口のまわりにいっぱいについた蟹の汁で痒いのを我慢して、取り合いをしながら、ぷりぷりの白く甘い身を口の中にほおばった。 蟹のパスタやエビをエスニックに炒めてみたが、祖母の蟹の思い出の味にはかなわない。そんな祖母の27回忌に、祖父と祖母が眠るお寺の和尚さんから手渡されたお経の教本の中にこんな文章があった。 食作法(じきさほう) 食前の言葉 (合掌)本当に生きがんがために、今、この食をいただきます。 与えられた、天地の恵みに感謝いたします。(十念)いただきます。 食後の感謝 (合掌)ごちそうさま。(十念) 十念は南無阿弥陀仏を十回称えること。 かれこれいい歳になった私に、また、今も祖母が教えてくれたのかと。 そんなことを思った一瞬、あの時の祖母のやさしい笑顔が浮かんできた。 当たり前だと思って、忘れがちになってしまっている、感謝や思いやりの心や言葉をあらためて大事にしなくてはと思った夏の日の1日でした。 |